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最高裁判所第一小法廷 昭和35年(オ)1407号 判決 1961年12月27日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人ら代理弁護士諌山博、同谷川宮太郎、同横山茂樹の上告理由第一点について。

所論連合国最高司令官の書簡を原判決解釈のように解すべきことは昭和二九年(ク)第二二三号、同三五年四月一八日大法廷決定(民集一四巻六号九〇五頁参照)により明らかであり、そして、所論昭和二六年(ク)第一一四号、同二七年四月二日大法廷決定は、ただ報道機関を対象としてなされた判断に過ぎない。されば所論は叙上の判例の推移を正解しないものと言うの外なく、採るを得ない。

同第二点について。

しかし、所論同調者であることを自認したということは、取りも直さず同調者であるという事実を認めたことに外ならない。従つて、そこに所論のいわゆる法律評価の加えられる余地などあるべき筈のものではないのである。従つて、原審が同調者であることは当事者間に争がないとし、これを以て当事者を覊束するものとした判断は正当である。所論はこれと異る見解に出ずるものであつて、採るを得ない。

同第三点について。

原判決が昭和三三年(ネ)第二五四号事件の第一審判決を引用して判示したところによれば、上告人田中盛義を除くその余の上告人及び選定者らに対する解雇通告は、被上告会社が前示連合国最高司令官の指示に基き煽動的な共産党員及びその支持者も企業より排除すべく、就業規則一五条一項三号、四号の範囲内で解雇基準を定め、同人らは右解雇基準に該当する者であるとの理由によつてなされたというのである。従つて、原判決には所論の点に理由不備の違法ありと言うを得ず、所論は原判決の趣旨を正解しないことに帰するものであつて、採るを得ない。

同第四点について。

所論原判示には、上告人田中盛義を除くその余の上告人及び選定者らに対する解雇につき所論にいう「公序良俗違反」「解雇権の濫用」「就業規則違反」等の問題の起り得ない旨の判断を含むものであることは、原判決の引用にかかる前示昭和三五年四月一八日大法廷決定がわが国の法令は連合国最高司令官の発する一切の命令指示に抵触する限りにおいてその適用を排除されると判示していることに徴し明らかである。それ故、所論は採用できない。

同第五点について。

原判決は、昭和三三年(ネ)第二五四号事件の第一審判決を引用して、選定者瀬田、坂内が共産党の支持者であり、その余の上告人及び選定者ら(但し、上告人田中盛義を除く)が共産党員であることは、いずれも当事者間に争のないところであり、しかも同人らにはそれぞれ右判示の解雇基準に該当する事実のあることを逐一挙示の証拠で認定した上で、同人らに対する解雇は専ら前示連合国最高司令官の指示に基いてなされたものであるところ、連合国最高司令官の指示は超憲法的規範としての効力を有しており、解雇の効力はその当時の法規に従つて判断すべきであるから同人らに対する解雇はそれが憲法や法令はもとより就業規則所定の手続に違反するかどうかを論ずるまでもなく有効であると判示したものであつて、右判示は相当である。それ故論旨は理由がなく、採用できない。

同第六点について。

しかし、記録によつて認め得られる本件訴訟の経過に徴すれば、被上告人は原審において所論最高司令官の指示に関する事項を主張していたものと認め得られないわけではないばかりでなく、もともと、上告人田中盛義を除くその余の上告人及び選定者らは本件解雇に対し信条等を理由とする無効のものであると抗争していたのであるから、裁判所がこれに対しその然らざる所以を被上告人の主張していない事実を加えて判断したからといつて、そこに当事者の申立てない事項を斟酌して裁判したことにはならないのである。けだし、かかる事実は当事者の主張にかかわらず立証によつて認定するを妨げない情況事実に外ならないからである(昭和五年(オ)第一〇二六号同年一一月九日大審院判決及び昭和二四年(オ)第一二〇号同二五年一一月一〇日最高裁判所第二小法廷判決各参照)。それ故、所論は採用できない。

同第七点について。

被上告会社が石炭の採掘販売を業とする株式会社であることは原判決及びその引用する第一審判決で一見明瞭であり、また石炭の採掘販売業が所論にいわゆる重要産業に該当することは前示最高司令官の書簡に徴し明らかであるから、原判決が趣旨として被上告会社が規模の如何にかかわらず重要産業を経営するものと判断したのは当然であり、そこに所論の違法ありというを得ない。故に所論は採用できない。

同第八点について。

原判決は昭和三三年(オ)第二五四号事件の第一審判決が上告人及び選定者ら(但し、上告人田中盛義を除く)の解雇基準該当行為は表現の自由の濫用にわたるものであるから、これに基く同人らに対する解雇が憲法二一条、二八条の各規定に違反する旨の上告人らの主張は採用できないと判示したのに対し、右解雇は連合国最高司令官の指示に基くものであつて、所論解雇基準は右の指示を適用するための基準に過ぎないものであるから、同人らの行為を解雇基準に該当すると認めることについては上告人ら主張の如き違法の問題は起り得ない等所要の訂正を加えた上で右第一審判決を引用していることは、判文上明らかであるから、所論はその前提を欠くものであつて、採るを得ない。

同第九点ないし第一一点について。

原判決挙示の証拠資料(当事者間に争のない事実を含む)によれば、所論の点に関する原判決の一連の事実認定は首肯できないわけのものではない。所論はひつきようするに、事実認定に関する原審の専権行使を非難するに帰するものであつて、採るを得ない。

同第一二点について。

記録によつても明らかなとおり、原審は所論事件の併合後弁論を開始した事実はなく、従つて、併合後の訴訟資料を判決の基礎とした事実はないのであるから、たとい右併合の措置が原審のかきんであつたとしても、それが判決に影響を及ぼす重要な法令上の違背とは認め難いから所論は適法な上告理由となし難い。所論も理由なしである。

同第一三点について。

原判決が口頭弁論の終結後である昭和三五年四月一八日に言い渡された最高裁判所の判決に従つて判断していることは所論のとおりである。しかし、下級裁判所が裁判時において、すでに最高裁判所によつて言い渡された判決に従つて判断することは、毫も妨げない筋合であるから、原判決には所論の違法ありというを得ない。所論は独自の所見に過ぎず、採用の限りではない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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